言葉の力

 人には体と魂があるように、言葉には文字と言霊がある。言霊は人を動かし、時に世界をも動かしてしまう――――


 猛は自分の家のドアを見上げ、呆然と佇んでいた。ドアの高さは2m、身長190cmの猛にとってドアノブは腰ほどの位置にある・・・・・・はずだった。現在、ドアノブは猛の頭上はるか上にあり、ドア枠の高さはその2倍ほどあった。ドアだけではない、家全体がそんな様子であった。今朝の2倍に巨大化していた。そして、こんな異常に巨大な我が家に対して、通り過ぎる人々は何の感想ももらさなかった。・・・・・・こんなことができるのはあいつしかいない。猛は深いため息をつきながら、腕を伸ばし背伸びをして巨大なドアノブを回し、分厚く重たいドアをなんとか開けた。猛の脳裏にふっと、自分の幼少期の記憶が蘇った。外に出ようとドアの前で背伸びをしても、ドアノブにすら手が届かない、そんな記憶だった。
 苦労して家に入ることができたとはいえ、ただ『玄関を開けた』に過ぎない。目の前には広い廊下とドアが3つある。1つ目は猛の部屋、2つ目は妹の空の部屋、3つ目はリビングにつながるドアだ。空の部屋からドタドタという重低音が聞こえ、地面が揺れたと思うと空が巨大なドアを乱暴に開けて猛の前に参上した。猛はそんな妹を見て顔をしかめると同時に、安堵の気持ちも抱いた。
「お兄ちゃん、おかえりー!」
 直立した空と猛が並ぶ、猛は空の腰よりもずっと背が低い。猛の目の前には、自分の胴体と同じかそれ以上の脚が2本立っていた。猛は190cmある大男であるが、空から見れば両手で掴める大きめの人形に過ぎなかった。空は話しにくいと思ったのかしゃがみ込むが、それでも空のほうが猛よりも圧倒的に巨大である。猛は巨大な妹に対して怒鳴り散らしたい気持ちに一瞬駆られたが、口から出てきたのは怒号ではなく、諦めに満ちたため息だけだった――――

***

 1ヶ月ほど前のことである。空は突然、『魔法使い』になった。何か言葉を発すると、それが現実のものになるという能力を身につけてしまった。『大きく』と言えば巨大化し、『小さく』と言えば縮小する。また『戻る』と言えば、それまでの魔法を全て無効にすることもできた。空はそれまでは身長108cmと小柄な小学2年生だったが、魔法によって体長500cmの巨大小学生と化した。当初は魔法に不慣れで色々と混乱することもあったが、今ではすっかり魔法を使いこなしている。新しい呪文も未だに見つかっており、最近は『いくつ』と尋ねることで物の大きさを知れることが分かった。空の身長が精確に500cmというのは、そのようにして知ったものだった。
 魔法を使いこなせるようになった空は、魔法で様々な悪戯をするようになった。猛が何か口出しをする度に、空は猛を小さくするようになった。最初は微生物サイズであったが、その次はウイルスサイズに。さらには素粒子サイズにまで小さくされることもあった。そんな極微スケールでは猛に意識などというものはなく、元に戻ってから空にどのくらいまで小さくなっていたのかを聞くことで初めてそこまで小さくされたことを知るのだが、空は『見たい』と思えばそのスケールを見ることができ、小さくなっていく猛を見ては無邪気に笑っていた。兄妹でそんなことをしているうちに、猛は妹に対して無抵抗になり、妹はそんな猛を従順な弟と見るようになり、兄を「猛くん」と呼ぶこともしばしばあった。
 そして今日、空は家の大きさを自分に合わせて巨大化させた。魔法が使えるようになり、家の中で巨大化した後、空は家の一部を破壊して外に出て、それ以来外で暮らすようになっていた。しかし家が恋しくなり、最近は家に入りたいとよく口にするようになっていた。自分を小さくすれば良いだけの話ではあるが、今の身長に対する思い入れが強すぎるために『戻りたい』と言っても魔法は発動しなかった。そこで空は発想を逆転させ、家の方を巨大化させたのだった。
 
 猛は空に抱かれてリビングまで移動し、かつては空専用だった巨大な脚立を上り、夕飯の支度を始める。野菜も肉も巨大化しており、猛は子どもの視線とはこんなものなのかと、のんきに感心することで現実を直視することを避けた。大鍋に水を入れ、野菜、肉を炒めていく。空も手伝おうとするが、魔法が使えても、身長が500cmあっても小学2年生であることにはかわりない。包丁もまともに扱うことができないが、猛の指示した通り、具が焦げ付かないようにずっと鍋をかき混ぜていてくれた。二倍以上の体格差はあるが、また時々立場が逆転するが、兄妹であることにはかわりない。2人は仲良く、共に夕飯を作った。夕飯は空の好きなカレーライスだった。

***

「ねえ、お姉ちゃーん!」
「えっ? ああ、菜々ちゃん、久しぶりー」
「お姉ちゃん、なんでそんなに大きいの?」
「え、えーと・・・・・・あ! いっぱい牛乳飲んだからだよ!」 
「うそだ! お姉ちゃん、おうちより大きいもん! そんなに大きい人いないもん!」
「ええ・・・・・・うん、ごめん。本当はね、お姉ちゃん魔法使いなの」
「魔法使い?」
「うん。内緒だよ」
「すごーい! じゃあさ、ななの、おねがいとか、かなえてくれますか?」
「う、うん! いいよ!」
「あのね・・・・・・」
「うんうん・・・・・・え?」

 猛は背伸びをしてドアを開け、空は背筋を伸ばして家中を歩きまわる。そんな生活が日常になってきた頃。猛はリビングで椅子に座り、巨大なテレビを空と共に見ていた。猛の椅子の上には本が何冊も積まれており、幼児が大人用の椅子に座る時の知恵を猛は惜しみなく利用していた。
 ピンポーン――インターホンが鳴り響き、部屋でこだまする。猛は空に出るよう言ったが、空はテレビを見ているからと言って、出たがらなかった。猛は仕方なく、高い椅子から降りて地面に着地し、玄関へと向かう。当然魚眼レンズを覗くこともできないため、猛はドアの向こうの人物を確認することなく、巨大なドアを開けた。
「はい、どちら様で・・・・・・」
 ・・・・・・猛は言葉を失った。背丈は猛よりもやや低い180cm程度であり、胸は服の上からでもその膨らみが十分見て取れるほどに大きい。体全体は女性らしい丸みに帯びており、顔は小さく、しかし目は大きく愛嬌があった。正真正銘の美女が、そこに立っていた。美女は手を前で組み、顔を異様に紅潮させて上目遣いで猛の方を見ている。メデューサに会ったかのように猛は体を硬直させ、そんな彼女から目を1ミリたりとも逸らすことすらできず、言葉を忘れてその美女を凝視した。
「は、はじめまして」
「あ、はい」
 透き通るようなソプラノボイスに、猛は我に返り、間抜けな返事をする。
「わ、私、空さんの友達の、菜々っていいます」
「そ、空の、友達ですか?」
「菜々ちゃーん!」
 空がリビングの方から玄関まで飛んでくる。そして2人の前でしゃがみ込み、2人を見下ろしながら満面の笑みを浮かべて言った。
「菜々ちゃんね、お兄ちゃんのこと好きなんだって!」
「ちょ、ちょっと」
 途端に菜々の顔が耳まで赤くなった。急転直下、猛は空の言っていることが理解できなかったが、理解が追いつくと直ぐに顔を菜々と同等までに紅潮させた。
 血流は荒れ狂い、心臓は爆発を繰り返す。しかし脳はそれでもアドレナリンを放出せよとの命令を解除しない。汗は滝のように流れ、下半身は巨大化して血の滾った野獣へと豹変し狭い檻の中を暴れまわった。不自由な腕を本能の操るままに持ち上げ、震える手で彼女の絹の如く滑らかな肩を撫でた。
 その日の夜、猛は全身獣と化するのであった。

 鳥はさえずり、朝日は窓から差し込み2人を照らす。猛の隣には世界屈指の美女がスヤスヤと、平和な寝息を立てて眠っていた。猛はそんな彼女を見るなり慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、それから昨夜の雲をも突き抜けるような快感を思い出しては再び野獣へと姿を変えようとしていた。最高の夜だった、人生は長いとはいっても、これ以上の興奮を得ることは殆ど無いだろうと、猛は思った。
 ドアの向こうから足音が聞こえる。猛は内心舌打ちをして、入ってくるであろう敵に備えた。
「お兄ちゃん、おはよー!」
 いつも通り、ノックもせずに空は兄の部屋に入る。空の声を耳にすると、猛の隣で眠っていた姫が目を覚ました。
「菜々ちゃんも、おはよー!」
「あ、お姉ちゃん」
「もう、あのこと言っちゃった?」
「あ、いや・・・・・・まだ・・・・・・」
 菜々は寝起きの白い顔をぽっと赤くして、布団で口元を隠した。猛はなんのことかわからぬといった様子で、2人の顔を交互に見ていた。空は小さく息を吸ってゆっくりと言葉を放った。
「・・・・・・菜々ちゃん、『戻って』」
「ああ・・・・・・」
 菜々の体が、するすると小さくなっていく。巨大だった胸は小さく、丸かった体は起伏の乏しい寸胴に、そして180cmの長身はその半分ほどにまで縮んだ。小さな女の子が、そこにちょこんと座り込んでいた。猛はその幼子を見るなり、目を皿のようにした。
「き、君は隣の・・・・・・」
「そう、4才の菜々ちゃん。私の魔法で大きくなってただけなの」
 菜々は小さくなった体を布団にうずめ、目に涙を浮かべながら、訴えるような目で猛をじっと見つめた。涙目で黙ったままの菜々の気持ちを、空が代弁した。
「菜々ちゃん、お兄ちゃんのことずっと好きだったんだって。でも、年の差だから絶対無理だって思って。でも、私がこんなに大きくなったのを見て、いけるかもって思ったんだって。でも、私ができるのは大きくすることと、成熟させることだけだから」
 それから空はベッドの横でしゃがみ込み、猛と目線を合わせて真剣な表情で言った。
「だからお兄ちゃん。もし菜々ちゃんが大きくなったら結婚してあげて!」
 空と菜々双方の視線が猛に刺さった。猛は急な展開に今の状況を完全には理解していなかった。それでも大方は理解していたし、今やるべきことも分かっていた。猛は一瞬、迷った。空の魔法なくして、菜々があんな美人に成長するという保証はない。また、今の段階で婚約してしまうというのも、お互いにとって早すぎることだと、猛は思った。しかし、今この状況で2人の願いを断るというのは、猛は男としても、空の兄としても、また昨晩菜々と関係をもったことを考えても、できなかった。
「・・・・・・ああ、約束する」
「ほ、ほんとですか?」
 菜々の顔がぱっと明るくなったかと思えば、次の瞬間、顔をしわくちゃにして菜々は泣きだした。猛は泣きじゃくる菜々の頭を、優しく撫でた。
「やったね、菜々ちゃん!」
「はい・・・・・・ゆめみたいです・・・・・・」
「私、応援してるから! 菜々ちゃんが『すっごく』『大きく』『成長』して、『成熟』して、おっぱいとかも『大きく』なりますようにって、祈ってるから!」
「は、はい! わたしもはやく『おおきく』『せいちょう』したいです! たけるさん、わたし、がんばって『大きく』なりますから!」
 菜々は目を輝かせながら、そう言った。猛はそんな彼女を見て、目を細めた。

***

 猛は背伸びをした状態でドアノブを握って回し、ゆっくりとドアを開ける。開けた先には、菜々がニコニコしながら猛を見上げて待っていた。
「たけるさん!」
 菜々は猛に飛びついた。猛は笑顔で菜々の頭を撫でた。そんな無邪気な菜々に、猛は以前の空を重ねてはそれを振り払った。
 こういった事が日課になってから、もう1週間が経とうとしていた。菜々は猛の家にやってきて、猛がいれば抱きつき、いなければ空と雑談をしながら猛の帰りを待ち、帰ってくるなり抱きついた。毎日、それを続けた。そして猛に抱きつくとすぐに家に帰っていった。そんな忠犬のような菜々を、猛は心から感心していた。しかし同時に、一抹の不安も感じていた。猛が菜々と肉体関係を持ったのは事実だが、猛が惚れたのは美女としての菜々であった。空の魔法によって作られた菜々だった。このまま菜々が成長していき、美女になるという保証はどこにもない。猛は心の底から、菜々の『成長』を祈った。菜々と共に過ごしたあの夜の事を、猛は忘れることができなかった。美女でない菜々を愛する自信が猛にはなかった。

 菜々は毎日猛を訪れ、猛はそんな菜々の頭を撫でて、褒めた。頭を撫でる度に猛は妙な感じを覚えたが、願望に基づくバイアスだろうと、初めは気に留めなかった。しかし日を減るごとに猛の違和感は確信へと変わっていった。4才児が小学生になり、小学生が中学生になる様子を、猛はこの1週間足らずで観測していた。菜々の背は日に日に伸びていき、また体つきも女性らしくなっていった。
「な、菜々ちゃん」
「はい?」
「し・・・・・・身長、伸びたよね?」
 菜々はそれを聞くと、にこりと笑ってさらに強く猛に抱きついた。リビングから空が笑いながら玄関まで来た。
「菜々ちゃん、やっと気づいてもらえたね!」
「はい、やっとです! 猛さん、全然気が付きませんでした」
 少女2人の盛り上がりを見て、猛は戸惑う。気がついてはいたが言わなかっただけとの言い訳を飲み込み、空に尋ねた。
「ということはつまり、空の仕業っていうことか?」
「違うよー! 菜々ちゃん、『戻って』」
 空が呪文を唱える。しかし、菜々に変化は見られない。菜々は笑顔で、猛を見上げていた。
「・・・・・・戻らない」
「そうなの! たぶんね、私が成長してっていったから菜々ちゃんが大きくなれたんだとおもうの。ただ大きくなるんじゃなくて、菜々ちゃんどんどん大人になるの!」
 猛は菜々の成長した体を、まじまじと見つめた。身長は150cmくらいで、顔つきはあどけなさが残り、中学生くらいの風貌をしていた。しかし胸は大きめで、将来有望なその膨らみに猛は胸をときめかせた。
「あ、あの・・・・・・そんなに見られると・・・・・・」
「あ! ご、ごめんなさい」
「い、いえ・・・・・・」
 菜々は上目遣いでチラと猛を見上げた。その艶かしい表情は、過去の美女を彷彿させるものであった。

 菜々の成長は日に日に加速していき、ものの数日で女子中学生は身長180cmの八頭身美女へと成長を遂げた。体だけではなく心も頭も成長し、猛に抱きつくことはなくなり、その代わり女の武器で、猛を誘うようになった。
「猛さん。私、成長しました」
 菜々は上品に微笑み、体をゆっくりと滑らかに動かしながら、猛を誘った。
「菜々さん・・・・・・とても綺麗です」
「ふふ、ありがとうございます」
 猛は菜々をそっと抱きしめた。数週間前に味わって以来、ずっと渇望していた感触だった。猛はそれを再び手に入れたのだ。
「ふふ・・・・・・ふふふふ・・・・・・」
 菜々は猛に抱かれながら、気持ちよさそうに体をくねらせていた。猛はそんな菜々を、さらに強く抱きしめた。脳内麻薬が猛を支配し、そして麻痺させていった。
 ・・・・・・何かが変だ。猛は咄嗟に我に返った。抱きしめるのをやめて、菜々の顔を真っ直ぐ見た・・・・・・目線が一緒だった。さっきまで、菜々は猛よりも10cmほど背が低かった。菜々もそれに気が付き、きょとんとした表情で首をかしげていた。
「あれ・・・・・・う、うわっ!」
 菜々の身長が急に伸びた。驚く暇もなく、菜々はさらにさらに大きくなっていった。3mを超えたと思えば、あっという間に4mを突破した。空は菜々の巨大化を魔法で止めようと、戻って戻ってと繰り返し呪文を唱えたが、全く効かなかった。
 5mを超え、巨大な家の天井に頭をぶつけたくらいで、菜々の巨大化は止まった。それから空は色々な呪文を唱えてみたが、どれも効果がなかった。菜々には『成長』の魔法がかかっていた。上限を設定していない以上、この魔法が停止することはない――――

***

 菜々の巨大化は止まることがなかった。3人の切実な『成長』の願いが魔法となり、菜々に作用した結果だった。菜々は家よりも大きくなり、ビルよりも、そして山よりも大きくなった。そこまで巨大化してからは、菜々は海に突っ立つようになった。猛と空は家からでも、天に向かって伸びる菜々の脚を見ることができた。空は毎日のように魔法で菜々に話しかけては、雑談を楽しんでいた。しかし、巨大化を止めることはできなかった。
 ある日の朝、猛が外を見るとそこに菜々はいなかった。妹を起こして菜々と連絡を取ると、菜々はすでに太陽系を離れていた。猛は家を見渡して、菜々が破壊した壁を見た。外を見渡して、菜々が破壊した木々や家、ビルなどを見た。そして、菜々が常識的なサイズだった頃を思い出して物思いにふけった。
 数日後、空は自分も巨大化すると言い出した。巨大化し、宇宙空間に一人ぼっちで漂う菜々は毎日、空に寂しいと言っていた。一人ぼっちの菜々を励ますため、空は菜々と同じ大きさになることを決意した
 。猛が何かを言ったところで空が決意を変えるはずはなく、空はすぐさま呪文を唱えて巨大化した。猛が呆然と妹の巨大化を見守っているうちに、あっという間に空は宇宙空間に飛び立っていった。
 
 恋人と妹がいなくなって以来、猛は普通の日々を過ごしていた。もっとも、天井500cmの異常に巨大な家を除いた、普通ではあったが。普通に起床し、普通に大学に行き、ラグビーをして帰る。巨大な妹に遊ばれる事もなく、絶世の美女に好かれることもなく、また、そんな美女が巨大化することもない。そんな常識的な日常を送っていた。今までの非常識な出来事は全て夢だったのではないかとすら思っていた。しかしその度に、異常に巨大な家を見てはこれが現実であることを再確認し、多くのトラブルに自分を巻き込んでおきながらも、なんだかんだで可愛げのあった2人の少女を失ったことに虚無感を募らせた。
 そんな日常にようやく慣れてきたある日、空いっぱいに、懐かしい声が響いた。
「おにいちゃーん!」
 猛は帰宅途中であったが、足を止めて上を見た。そこには、雲ひとつない青い空だけがあった。空耳かと思い、再び歩き出した。
「おにいちゃんてばー! 聞こえてるー! こっちに『おいで』よー!」
 猛の目の前は瞬時に真っ暗になった。初めは酷く動揺したが、周りに無数にある様々な色、形、大きさの球状の物体がどんどん小さくなっていくことに気がつくと、猛は全てを察した。しばらくすると、真っ暗だった世界は途端に真っ白に変わり、そこには懐かしい顔が並んでいた。
「お兄ちゃん、久しぶりー!」
「お、お久しぶりです」
 妹の空は依然として巨大であった。そして、菜々は空よりもさらに巨大であった。猛なそんな2人を見て、小さく微笑んだ。
「ああ、久しぶり。急に、どうしたんだ?」
「最初は2人で暮らそうって思ったんだけど、やっぱりお兄ちゃんがいないと、変だなーって!」
「これからは、みんな一緒ですよー!」

***

 ――――見えているものが真実なのか。こんな狂った世界があり得ていいのか。猛はそんなことを考えていた。しかし今となっては、むしろ昔の世界の方がおとなしすぎたのだと思うにいたった。
 猛は今、真っ白な世界で空、菜々と一緒に暮らしている。猛の身長を190cmとして、空は500cm、菜々は800cmである。菜々のカラダは健在であり、猛と菜々は毎日の様にセックスを楽しんだ。子どもも産まれた。菜々サイズだったり、猛サイズだったり、男だったり女だったり、色々な子が2人の間にできた。
 猛は、普通の日々を過ごしていた。起床して、子育てをして、女房とも仲良くする。そんな、幸せな日々を過ごしていた。

「猛さん、どうかしましたか?」
「ん? ああ、いや。ちょっと、考え事をしていて」
「なになにー、お兄ちゃんエッチなこと考えてたのー?」
「違う違う、昔のことだよ。俺らがまだ・・・・・・あれ、あそこはなんといったかな?」
「うーん? 昔のこと?」
「お引越しとか、したことありましたっけ?」
「・・・・・・あーすまん、忘れてしまった。思い出したら話すよ」
「そんなこといって、本当はエッチなこと考えてたんでしょー」
「違う違う! ・・・・・・いや、もしかしたら、そうだったのかも・・・・・・な・・・・・・」
-FIN