小さくなりたい姉と大きくなりたい妹

登場人物
・長女、トモコ:18歳、高校3年、身長200㎝、Jカップ
・次女、タエコ:12歳、小学6年、身長170㎝、Dカップ
・三女、ユウコ:6歳、小学1年、身長100㎝、ツルペタ

 朝7時30分にユウコは目を覚ました。ベッドから降りて、短い脚でよたよたと歩きながら顔を洗い、リビングに現れた。
「おはよー」
「おはようユウコ。早く朝ごはん食べなさい」
 優雅にコーヒーをすすりながら、ニュースを見る長女のトモコ。高校3年生でありながら、身長は200㎝、バストはJというモデルも顔負けのスタイルを具えた美少女。そんなトモコにユウコは羨望のまなざしを向けてから、自分のちんちくりんな体躯に目を向けては深いため息をつく。
「おねえちゃんずるい! わたしも大きくなりたい!」
 ユウコはマイペースにコーヒーをすすってから、ユウコの頭を撫でて微笑む。
「いつも言ってるでしょ。ユウコもそのうち大きくなれるって」
「そうそう」
 ユウコの後ろに立って、次女のタエコがユウコを見下ろした。
「私だって1年生の時はユウコと同じくらい小さかったけど、毎年10㎝以上伸びて、6年生になって170㎝。胸もDあるし、学校の先生より大きい。だからユウコだって、大きくなれるわ」
 妹を励ますタエコ、そんな姉を見てユウコは頬を膨らませた。
「やだ! 今すぐ大きくなりたいの! おねえちゃんと同じくらい大きくなりたいの!」
「もう、困った子ねー。私は、タエコくらいの身長がちょうど良くていいと思うけどなー」
「そう? でも私より高い人結構いるから、私もお姉ちゃんくらい伸ばしたい」
「大きすぎるのも、困りものよ。身長も、それ以外も。あ、私もう行かないと」
 トモコはカバンを持ってすっと立ち上がる。座っていてもユウコよりずっと大きかったトモコが、立ち上がることでさらに大きくなった。ユウコはそんな大きな姉を見上げて何も言うことができない。
「じゃあ、行ってきます。戸締り忘れずにね」
「はーい。行ってらっしゃい」
 トモコを見送ってからタエコは食パンをかじりはじめる。
「ユウコも早く食べなさい」
 テレビのチャンネルを切り替えながらユウコに言うタエコ。長女よりは小さいとはいえ、タエコは学校で1番背が高い児童として有名だ。一方ユウコは、学校で1番小さな児童。大きな姉に囲まれてどうして自分はこんなに小さいのかと、ユウコは毎日嘆いていた。
「あーあ、身長伸びないかなー」
「まだ言ってるの? 早く食べなさい! 遅刻するわよ」
 タエコに怒られてユウコはしぶしぶ黙り込み、姉に見せつけるように口をへの字に曲げて朝食を食べ始めた。しかし妙子はそんなユウコが視界にも入っていないかの如くテレビに熱中している。そんなタエコを見て、ユウコはさらに苛立ちを増していった。

 高校の帰り道、トモコはコンビニで買い物をしていると後ろからクスクスと笑い声が聞こえた。
「でっけー」
「でかすぎだろ。人間じゃねえよ」
「でもパイパイもでっかいぜ」
 男子中学生2人が、トモコの長身を見て怪訝な表情や、いやらしい表情を浮かべながらトモコの身体について会話を始める。そんな2人をトモコが睨みつけると、小さく驚いてから負けじとトモコを睨み返してそそくさと去っていった。トモコは2人が去っていくのを見て小さくため息をついた。
「はあ、小さくなりたいなあ」
 ジュースを買って会計を済ませて外に出ようとする時、トモコはドアに軽く頭をぶつけた。普段はドアを通る時は気を張ってぶつけないようにしているものの、今のように他のことに心が奪われているときはぶつけてしまうことがよくあった。
「うー、まだ伸びているのかなー・・・・・・」
 ドアの高さは200㎝と、トモコは耳にしたことがあった。靴底で多少は高くなっているとはいえ、春にはややかする程度だったため、トモコの身長は春の200cmジャストからさらに伸びたのではないかと、トモコは度々思うのだ。そしてそう思うと、彼女はより一層気分を沈ませた。
「身長を縮める方法とか、ないかなー?」
 家に帰るまでトモコはスマホでそんな方法を必死に検索してみる。数えきれないほど検索したワードであり、身長を伸ばす方法はあっても縮める方法がないことは百も承知だった。しかしそれでもトモコは検索しないでいることはできなかった。
「ん? なにこのアプリ・・・・・・」
 身長を縮める方法を調べていると、とある不思議なアプリがトモコの目に留まる。"Change The Body"、直訳すれば『身体を変えよ』という安直なネーミングでありながら、トモコはなんとなく惹かれてそのアプリをクリックして詳細ページに飛んだ。操作説明を見ると以下のように書かれている。

このアプリは、画像をアップロードすることでその人の体型を変化させることができるアプリです。
~操作方法~
1.変化させたい人の全身写真を撮影し、アプリにアップロードします
2.下のメニューから変化させたいものを選びます
3.希望の体型に変化させ終わったら、保存ボタンを押してください
なお、変化には数日を要します。

 トモコはアプリの効果は全く信じていなかったが、暇つぶしと慰めには使えるだろうと思い、家に帰ってからダウンロードを始めた。数十MBしかないため一瞬でダウンロードが完了し、トモコはアプリを開く。そしてカメラのセルフタイマー機能で自分の全身写真を撮影しアプリにアップロードし、トモコは自分の体型をいじり始めた。
「えーと身長は160cmでバストはE、ヒップはー・・・・・・普通でくびれを付けてー」
 部位を変化させると、それを反映してアップロードした全身写真が変化していく。その見事なクオリティにトモコは感心しながら、自分の画像を標準的なモデル体型へと変えていった。そして理想の体型となった自分を見てトモコは1人小さく笑った。
「おねーちゃん! なにしてるのー?」
 ベッドにうつぶせになってスマホを操作していたトモコの背中をベッドとみなしているかのように、ユウコがそれを目指して飛び乗る。2倍の身長差があれば、こんなことをしてもトモコはなんとも感じない。
「あらユウコ。そうだ、ユウコもやってみる? 自分の身長とかを変えられるのよ」
 それを聞いてユウコは目を輝かせた。トモコはそんな嬉しそうな妹を見てにこりと微笑み、別のタブを開いてからユウコの全身写真を撮って新しいタブにアップロードした。
「このボタンをいじると身長を変えられるの。身長以外にも、色々といじれるわよ」
 姉の大雑把な説明を聞くなりユウコは一心不乱にスマホをいじり始める。身長300cm、胸は姉よりも大きくRカップ。スタイルも、小学1年生にもわかるくらいに極端なモデル体型になるようにスリーサイズをいじっていく。妹のスタイルが人間離れしていく様子をトモコは横で見ながら苦笑いを浮かべていた。
「これでかんせい!」
「じゃあ、『一括保存』っていうボタンを押してちょうだい」
 言われた通りユウコはその文字をタップする。その時ユウコがどこかのボタンに触れていたことをトモコは見たが、特に気に留めなかった。待機中を知らせるシンボルが表示され、2人はそれが終わるのを胸を躍らせながら待っていた。しかし保存完了の画面は中々表示されず、ユウコは飽きてどこかへ行ってしまい、待ち疲れたトモコはアプリを強制アンインストールしてしまった。

 翌日、目を覚ましたトモコは布団から起き上がり、寝ぼけ眼で部屋から出て行く。昨日はアプリで遊んだ後、深夜まで友人と課題をやっていたため寝不足であった。目を半開きにした状態で洗面所に入って顔を洗い、ドアを抜けて出て行く時にトモコははっとした。
「あれ? 頭、ぶつけなかった・・・・・・」
 トモコははっとした。昨日のことを思い出し、トモコは三角定規を使って自分の身長の位置に壁に印をつけ、メジャーで測定する。199cm、春よりも1cmだけ縮んでいる。たかが1cm、しかし縮んだという事実にトモコは歓喜してわずかに飛び跳ねた。
 鼻歌を歌いながら上機嫌で朝食を作り、自分の分を食べていると妹の足音が聞こえてきたくる。いつもと同じように、タエコが起きて来たのかと思うとユウコが廊下を走ってリビングに飛び込んできた。
「おねえちゃん! 身長のびたよ!」
 姉の服を掴み、興奮して揺らすユウコ。トモコは食事を中断してさっき自分がやったように、メジャーでトモコの身長を測る。101cmと、1cmだけ伸びていた。たかが1cm、しかし伸びたという事実にユウコは歓喜してぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「このままどんどん伸びるかな?」
「うん、むくむくーって、大きくなるわよー」
 白い歯を見せながらにっこり笑うユウコを見て、トモコはそんな妹を抱きしめながら頭を優しく撫でた。
「おはよー。朝からなんの騒ぎー?」
 170㎝のタエコが起きてくる。トモコよりも頭1つ小さく、ユウコよりもずっと大きいタエコ。そんな次女を見て2人はさっきまでの興奮を直ちに沈めた。背が伸びた、縮んだといってもたったの1cm、本人にとっては大きな変化でも、周りからしてみればどうでもいい誤差であることに、タエコの登場で気が付いてしまった。
「ううん、なんでもないの。ご飯できているから食べて頂戴」
 トモコは妹を床に下ろして、椅子に座って朝食を再開する。1cm縮んだといっても、トモコにとって椅子が小さいことには変わりなく、窮屈そうに脚を机の下に収めている。ユウコは、幼児用のチャイルドシートに腰掛けて姉の4分の1ほどしかない少量の朝食を小さな口で時間をかけて食べる。1cmの変化に喜んでいた自分に虚しさを覚えつつ、2人はいつも通りの朝を過ごした。

 1日だけの変化であったのなら、1cmの変化というのは単なる誤差か偶然となる。しかしそんな変化は翌日も翌々日も続いた。30日後にはトモコは170㎝と標準的な高身長に、ユウコは130㎝と小学1年生としてはかなりの長身になった。
 一方、タエコはこの1か月の間に10㎝背を伸ばし180㎝になっていた。この急成長にはタエコ自身も驚き、また姉妹で1番背が高くなってしまったことに複雑な感情を抱いていた。しかしその後も長女と三女の成長は続いた。それも、それまでの成長をさらに加速させながら。数日でトモコは160㎝まで縮み、理想の身長になれたと喜んだ。ユウコも160cmになって、トモコと並んだことが嬉しかった。
(これで終わりね、あのアプリ、最高だったわ!)
 しかし理想の身長になったその後もトモコの変化は続いた。数日後にユウコが200cmになる頃にはトモコは100cmになり、最初の頃と身長が逆転した。しかしスタイルは、ユウコが望んだようにRカップのエロティックな美女となっており、一方トモコは若干最初よりも劣ったものの抜群であった。
 トモコは自分の設定以上に縮んだ身長に焦りを感じてアプリを再インストールしようとしたものの、履歴をたどってリンクを踏んでも"404 not found"の文字が浮かびインストールすることはできなった。
 
 ユウコの身長はその後もグングンと伸びていき、200㎝になったかと思えば数日に300㎝になり、1か月後には桁を1つ上げて20mを突破し、体つきもますます欲情的になった。20mになったユウコは当然天井まで250㎝しかない家には住めない。そこで特別に自治体から許可を得て使われていない高さ50mのドームで暮らすようになった。
 一方その頃トモコは20㎝まで縮んでおり、人形の服を着てドールハウスで暮らすようになっていた。
「お姉ちゃん、住み心地はどお?」
 タエコがプラスチック製の窓から中を覗きこむ。
「思ったよりも最高よ!」
 ニコニコしながらベッドに飛び込み布団というハンカチに包まるトモコ。タエコは楽しそうな姉を見てにこりと微笑んだ。しかしそんなドールハウスの生活も1ヶ月ほどで破綻してしまう。日に日に小さくなるトモコはやがて1cmまで縮み、ドールハウスのベッドすらも上れなくなってしまった。今ではトモコは、タエコの机の上の10cm四方のスペースで暮らしていた。
「ねえお姉ちゃん、せっかくだしユウコのところ行かない?」
「ああ、行きたいわ」
 タエコはケースに布を敷き詰め、その中にトモコを、まるでアクセサリーを入れるように、つまんで中にしまい、蓋を締めてリュックの中に入れた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
 ええ大丈夫よ、という小さな声が聞こえて、タエコは安心して部屋から出て、家から出て自転車に乗った。1cmの生き物から発される声が、リュック越しに聞こえるはずはないのだが、どうしてかタエコは聞き取ることができるのだった。
 5分ほど走ったところにユウコの住むドームはある。15階建てのマンションに匹敵する高さを持つ巨大なドームであり、それが今は1人の少女のために使われているのだ。
「ユウコー、来たわよー」
 タエコが叫ぶと、ユウコは目を開けてタエコの方をじっと見る。タエコの身長と同じくらい大きな、ユウコの黒目。トモコにとってドールハウスが大きすぎて使えなくなったように、200mまで成長したユウコは脚を抱えて横になってやっとドームに収まるのだ。
 タエコはリュックから姉を取り出して。掌に乗せた。
「トモコお姉ちゃんも一緒よー」
「うわー、おねえちゃんちっちゃーい」
 100倍の妹と100分の1の姉の面会。相対的にその体格差は1万倍であり、ユウコはトモコを辛うじて目視できるかどうかというレベルであり、会話はできない。
「ユウコ、ドームの住み心地はどう?」
「ユウコ、お姉ちゃんが、住み心地どうって聞いてるよ」
「住み心地? うん、いい感じ!」
「いい感じだって」
 タエコを仲介にして、長女と三女は会話をする。その後10分ほど2人は会話を続けたが、その間タエコは嫌な顔一つせずに通訳に応じた。なんだかんだで2人の急成長を1番楽しんでいるのは次女のタエコだった。
 なお、タエコの成長はその後も続き、今では210㎝になっていた。学校では登校するたびに巨人女の襲撃と揶揄されていたが、巨大な妹を見慣れているタエコにとってはそのように言われるのがむしろ新鮮であった。

 その後も2人の変化はまだ止まらず1か月後には姉は1ミリよりも小さく、妹は2000mを超える大きさとなった。ユウコからはタエコでさえもショウジョウバエのように小さく、トモコに至っては目視不可能であった。
 一方トモコにとっては、タエコでさえ数千倍サイズの大巨人であり、ユウコは相対的に100万倍の身長2000kmという、日本列島や月の直径に匹敵する巨大さであった。これだけ巨大な生命体というものを目の前にしたとき、トモコは文字通りの『母なる大地』を実感したという。
 無制限に思えた変化も、最初の変化から半年が過ぎた頃に止まり、そこでどうしてこんなことがおこったのかが判明した。理由は単純だった、単位が間違っていたのである。ユウコは身長を300cmと入力したつもりだったが実際には300kmになっていた。一方トモコは途中までは正しかったのだが、設定を保存する時にうっかり触ってしまったことで単位が変わり身長の設定が160cmから160nmに変更されてしまっていたのだ。
 長女はウイルスサイズに、次女は人間サイズに、三女は小惑星サイズになった。微生物以下の大きさになったトモコが安心して暮らせるようにと姉妹で考えた結果、タエコの乳管の中に住むという案がトモコから出てきた。タエコの乳管も、トモコから見たら高さが50kmあるチューブで地平線がみえてしまうほどだ。トモコがタエコの乳管の中を奥まで歩くだけで何日も何十日もかかるほどの広大な空間であり、まるで乳管の中が国のように感じられるほどという圧倒的なサイズ差が2人の間にはあった。
 さらにタエコの母乳から栄養を摂取することもできるため、食事にも困らないというメリットもあった。タエコの乳管の中にトモコは家を建てて、以前のドールハウスと同じように快適に暮らしていた。
 一方ユウコは、太平洋に立って日本を見下ろし、その小ささを実感していた。まるで1つの部屋くらいの大きさの、日本列島。列島を丸々使えばそこで生活ができそうなほどの空間がある。ユウコは寝そべり、自分の乳首を地面につけた。
「うわあ、富士山だー」
 日本最大の山である富士山、しかし富士山よりも巨大な自分の乳首を見てユウコは優越感を抱く。
「えへへ、みんなちっちゃいなー。虫さんよりもちっちゃい。おねえちゃん言ってた。こういうの、びせいぶつって言うんだって」
 地面すれすれまで乳首を近づけるユウコ。すると、何かが乳首に付着するのをユウコは感じた。普通であれば微生物からの刺激を感じることはあり得ないが、ユウコの触覚機能は著しく上昇していた。
「ユウコ様の乳首だぞ! みんな、飛び移るんだー!」
 多くの人々が、地球に最接近したユウコの乳首を目指してジャンプする。宇宙一大きな女の子となったユウコ。その巨大さに加えて、人間離れしているともいえるその美貌。ある人はこう言った、彼女は人間を超えたのだと。そんなユウコに畏敬の念を抱き、地球から脱出してユウコの上で暮らしたいという人々が出てきたのだ。

「ユウコ、すごいわねー・・・・・・なんか、遠い存在になっちゃった感じ」
 タエコがそうつぶやくと、彼女のポケットから電子音が鳴る。スマホを開くと、そこには"Change The Body"の文字が。
「これって、ユウコが大きくなったっていうアプリじゃ」
 しばらくアプリをいじっていると、タエコはにやりと微笑みユウコの昔の写真をアップロードした。昔の写真でも今の状況が反映されているようで、身長は300kmとなっている。タエコはそれをさらに大きくしていった。
 国に匹敵する身長でありながら、さらに成長をするユウコ。地球にはいられなくなり、ユウコは宇宙空間に飛び出る。60万kmという大きさまで巨大化したユウコの乳首は地球に匹敵する。巨大化しさらに美しくなったユウコは全人類を魅了し『美』という概念そのものへと変化した。さっきは一部の人間が乳首にすがることに命を懸けていたが、今では乳首移住という人類規模のプロジェクトが計画されるに至った。
 そこまで巨大化したところで、タエコはまたアプリに目を落とす。そこには見慣れない文字、『使用制限あと1回』。つまりこのアプリはあと1回しか使えないのだ。それを何に使うのか。ユウコを元に戻す? トモコを元に戻す? それとも・・・・・・
「ユウコを、もっともっと大きくしちゃおう!」
 タエコはスマホをタップしてさらにユウコを巨大化させ始めた。
「300km・・・・・・いやもっと大きくても・・・・・・300光年・・・・・・まだ大きくてもいいよね?・・・・・・300億光年・・・・・・もう少し・・・・・・300兆光年・・・・・・」
 最後なのだからという思いでドンドン単位を大きくし、結果300兆光年という宇宙よりも遥かに巨大な存在にしてしまった。ユウコは宇宙をすべて乳腺に入れても余りある観測不可能な外部の存在と化してしまったのだ。
「ねえタエコ、何をしたの?」
 乳管の中の姉に尋ねられて、タエコはどきっとする。正直にすべてを告白すると、トモコは自分を元に戻してくれなかったとやや残念に思った。しかし妹が大変な存在になったというのが、姉として誇らしくもありった。いま、全宇宙の生命がユウコの乳腺の中に入っている。それらはこれから、ユウコの乳腺という環境をいかに開拓して新たな文明を築いていくのだろうかか。トモコはそんなこれからの未来を想像して自然と笑顔になるのだった

「なにー、私のこと大きくしたのって、おねえちゃんだったの?」
 タエコとトモコの会話を聞いていたユウコ。最後の操作で自分がここまで巨大になってしまった、しかも元には戻れないというのを知ってユウコは少し複雑な気持ちになった。しかしすぐに元気を取り戻した。
「ユウコ、もしかして私、余計なことしちゃったかな?」
「ううん! おねえちゃん、ありがとう!」
 しかし宇宙よりも遥かに巨大な身体、そして言語化不可能な美貌とスタイル。この世のありとあらゆるものを手に入れた超越者となったのだと実感したユウコは、かつてない優越感を感じながら、乳腺の中の姉妹にお礼を告げる。
「ねえ、おねえちゃんっていま、私のおっぱいの中にいるんだよね?」
「ええ、そうよ。おっぱいっていっても、地球にいた時と変わりないって、思うけど」
「えへへ、おねえちゃん、かわいいなあー」
 巨大な胸を抱きしめて、ユウコは目を瞑る。母性にみちた表情で、ユウコは自分の胸を抱きしめていた。
「世界ごとずっとずっとおっぱいの中で愛してあげるからね」
 彼女の呟きは時空間全てに偏在し、その内部の生命体を安らげるのだった。
-FIN

創作メモ