最終兵器巨大少女

 某国間で始まった戦争は年々激化し、10年にわたる戦争は人類の滅亡をより現実的なものにしていく。兵器はより凶悪に、反倫理的になっていった。一度使え敵はおろか味方さえも大きな傷を負う、そんなことは火を見るよりも明らかな、大量虐殺を誠実に考え抜いた者のみが思いつく数々の兵器を、力を持った狂人は惜しみなく使っていく。彼らの目に映るのは勝利のみであり、そのためには自身の破滅すら省みないという矛盾をついに自覚することなく10年の時を過ごしてきたのだ。
 しかしながら、正常な人類というものは平和を求める。平和を愛し求める一国の王は、狂人を殺し、戦争を終わらせる事を目指して戦争に参加していった。そんな国が生み出した愛の結晶、最終兵器『少女』。王は娘を実験台にして早14年、ついに彼女は目覚める。
 超音速ジェットが敵陣に向かってミサイルを発射した。それは敵陣の目の前で爆発する。ミサイル、それは少女にとっての乗り物であった。事態の異常をレーダーで察知した敵国は攻撃態勢に入る。彼女に見合う兵器の準備を着々と進めていった。
 砂埃が晴れ、少女の裸眼でも足元の敵陣の様子が確認できるようになる。先の爆発の結果100倍に巨大化した少女は上空からじっと敵陣を見据えていた。基地内部であわただしく攻撃準備を進め、降伏する気なし。少女はそう判断した。そして、一歩敵陣に足を踏み入れた。体高が100倍なら、体重はその3乗倍、つまり彼女の一歩は普通の少女の100万倍にもなる。鉄筋コンクリ―トがぼろぼろと崩れていった。彼女の目的は戦争の終結と、人類の存続。人類の歴史を守り、狂った国家を潰すための最終兵器。彼女は遠慮せず目的のために破壊を続けた。
 敵陣でも同等の爆発起こる。160m上空でさえ砂埃が目を刺激するほどの激しい爆発。手で埃を払いながら薄目を開けて、少女は言葉を失う。
「ハアイ、こんにちは」
 得意げな笑顔を浮かべて少女を見下ろす、もう一人の少女。160mの少女よりもさらに頭1つ大きい彼女。およそ180m。服の胸ポケットに刺しゅうされた敵国の国旗が彼女の正体を表している。想定していなかった事態に少女は焦る。技術が漏れたのか、それとも独自に開発したのか。どちらにしても、彼女の能力はどれほどのものなのか。
 しかし最終兵器の名は伊達ではない、きっちり14年間かかった最後の計画、最後の希望。少女はこぶしを固く握りしめた。
「攻撃しないのかしら?」
 相手の挑発に、少女は無言で彼女を睨みつける。「そっちがこないなら、お先に失礼」下アッパーが少女を襲い、倒れる。隙を見せずさらなる攻撃を続ける敵兵。ありとあらゆる格闘技の技を総動員して少女を痛めつけた。すごい力、少女は受け身すら取らずに攻撃を真正面から受けて、冷静にそう思った。と同時に彼女は小さく微笑んだ。わざわざ攻撃をする程度には弱いのだと彼女は安堵した。
 立て続けに攻撃を続ける彼女。披露困憊した彼女はやがて攻撃をやめて休憩に入る。地面に叩きつけられた少女は攻撃が止んだことを確認してからゆっくりと立ち上がる。あれだけの攻撃を受けてもまだ立ち上がれるのかと、敵は息を荒げながら少女を睨みつけた。そしてようやく少女の異変に気が付いた。
 中腰になった段階ですでに彼女と目線が一緒になり、それからゆっくりと少女の顔が上昇していく。背筋を伸ばす頃、彼女の目の前には少女の腰があった。
「は、はああ?」
 目を丸くして少女を見上げて睨みながらも、動揺を隠せず数歩後ずさる。少女の後ろの敵陣からサイレンが鳴り響く。ミサイル発射、少女の背中に命中し、炎が少女を包み込んだ。
「はは! デカくなったからって、油断してるからよ!」
 敵の少女の高笑いが少女の耳に入っていった。痛みも暑さも彼女は感じない。感じるのはただ、自分が変化しているという実感のみ。核融合の大火に包まれた少女はその炎が消えないうちから何事もなかったかのように立ち上がる。身長1600m、敵の巨大少女はふくらはぎにかろうじて届くくらいの大きさしかない。
「くそ! くそ!」
 10分の1ほどの体躯でも、彼女は少女に攻撃をする。しかし当然なんの効果もない。彼女が攻撃で披露したタイミングで、少女は足を持ち上げて彼女の上に力強く下ろした。それからも念入りに、足の裏を地面にこすりつけた。ミンチ状になったそれが地面を赤く染めていく。
「さあ、終わりにしましょう」
 少女は敵陣に向かって突進する。目につく建物を破壊し、手を使って地下も掘り起こしていく。幾度とない攻撃を受けるものの少女は無敵であり、むしろ攻撃を受けるほどにそのエネルギーを吸収して強くなっていくのだ。敵陣が完全に潰れるころ、少女はさらに2倍以上の大きさに巨大化していた。
 別の敵を潰しに行こうと立ち上がった少女の前に、一匹のショウジョウバエ。目を凝らしてよく見ると、青い旗をその戦闘機は振っていた。戦争終了、それを知らせに来たのだ。
 少女が小さく微笑むと、戦闘機は少女の故郷に戻っていった。少女はこれから、体がエネルギーを消費し終えるまでこの場で長い眠りにつく。たった今崩壊させた元敵陣の上に寝そべって、少女は目を閉じた――
 数十年後、平和になった世界でただ1人、熱心に軍事研究を推奨する若手政治家の姿がそこにはあった。
「平和は決して当たり前の環境ではありません。私たちは積極的に守り続けなくてはならない!」
 マイクを手に、駅前で演説をする女性政治家。そんな彼女を人々は一瞥しては無言で通りすぎる。こんな世界に軍事なんて必要ない、そんな声がどこからか聞こえてきた。数多の批判を受けながら、時には危険思想の持ち主だとの疑いをかけられながら、それでも彼女は自分の主張を曲げない。古い人が望んだ理想郷、平和な世界。しかし現実の平和とは建前だけでその背後で多くの爆弾を抱えているというのを彼女は知っていた。そんな平和ボケした世界で、こんな世界を少しでも長引かせるために1人熱血に闘う彼女の姿がそこにあった。
-FIN